小説 サイバーパンク3001 -路地裏のダンサー

7章 記憶



カーラはシエン達が乗るエレベーターとは別の、表示もドアもない壁からすり抜けるように現れた。
壁は液体の波紋の様に波をうつとすぐに平らな壁に戻った.
「これは・・。」天井裏に出た瞬間、目の前に広がる風景と状況に言葉が詰まった。大量のドローンが天井に開いた窓から空へ吸い込まれて、壁に押し潰された機械の残骸が足元を埋め尽くしている。
想像を超えるスケールでの戦いが行われた跡だ。
『これは、君の仲間とコウがやったのだな。』壁の中からコウに似た人物が降りて、カーラに話しかけた。
「みんなはどこに?」
人物は空を指さした。
カーラがその方向へ視線を向けると、コウやマシーナの姿が見えて手を振った
「マシーナ!聞こえる?無事なの?今、天井裏についたわ!」コウやマシーナの姿が見えカーラは手を振った。
外にいるマシーナは無線に反応して、開いた天井から下を覗いている。
《カーラ?いるの?》
「すぐ下にいるわ。危ないから覗かなくていい。」
《カーラ?天井裏に上がったのか?どうやって。》その無線からシエンの声も聞こえる。
カーラは何と説明したらよいかわからなかった。振り返って名前を聞こうとしたときそこにさっきまでいたコウに似た人物の姿はなかった。かすかに波打つ壁のエレベーターは残され、彼女の存在だけが消えたようだった。

《カーラ。外殻の通信は破壊した。天井裏の装置もおそらく機械に潰されただろう。もうカインはR層に干渉できないはずだ。》無線からテオの声がするが姿は見えない。
「テオ。私は今さっきカインと戦闘して倒したばかりよ。エレベーターから手下のロボットを追跡してカインの部屋を発見したの。少し会話もした。」
『何だって?確かにカインなのか?』
「ええ。自分でも認めた。ただ日光を動かしたのはカインではないと言っていた。」

テオは一瞬考え込んだ。「分かった。詳しい話を聞きたい。いま降りるからそこで待っていてくれ。」
テオが無線を切りエレベーターへ向かおうとした時、近くにドローンの部品が落ちてきて小さく砕けた。
(なんだ?)暗い空を見上げると、外の世界の異変に気が付いた。(嵐が弱まっている・・。)

コウがモップをひねって外殻の装置を操作すると細かい振動が始まり外殻の窓が閉じ始めた。
《もう天井を閉めるぞ。挟まれたり、落ちないように注意してくれ。》
マシーナは一人であたりを見て歩いている。「マシーナすぐ戻って!危ない。」気が付いたヘラが呼び戻した。
風は一人で歩ける程度には弱まったが時折強い突風が吹く。 ガン! ドローンの頭部がテオの近くに落ちた。ハンマーで叩くような音に重量を感じる。上を見るとまだ多くの破片が上空で風の力を失い重力につかまり始めていた。
《風が弱くなった!上からドローンが落ちてくるぞ。急いでエレベータに戻るんだ!》
カラカラと小石を落とすような音が周辺から聞こえてくる。落ちてくる欠片の音が多くなってきた。
テオがエレベーターのボタンを押し全員の位置を確認していた。ヘラはタワーの陰からマシーナを呼んで待っている。
コウは一番遠いがモップのバリアを傘のようにして大丈夫そうだ。
《シエン、ドローンが落下してくる。エレベーターに入れるか》
《了解。すぐ戻る。十分撮影できた。》
マシーナは、ヘラが呼びかけても、まだ離れた場所におり、かけらが落ちてきてあわてて戻ってくるのが見えた。
近くにいたシエンがマシーナを見つけた。「マシーナ何をしている!エレベーターに戻るぞ。」

マシーナは、シエンが使っていたアンチドローンを背負い、床に散らばったドローンやケーブルを避けエレベーターへ
駆けてきている。
『マシーナ。まだ天井は閉まり切っていないから気を付けて!』マシーナが上空に気を取られ、まだ大きく開いている床の空間へ落ちそうでヘラは気が気ではなかった。
「大丈夫!」マシーナは床を這っているケーブル見つけ軽く飛び越した。
その瞬間ケーブルがわずかに跳ねて足に引っかけるように当たり、マシーナは勢いよく前のめりで転んでしまった。
「痛っ!」膝を打ちその場でうずくまった。
「マシーナ!大丈夫か」
シエンが駆けつけてマシーナを抱えようとしたとき、再び周囲のケーブルがその場でバチンバチンと音をさせながら跳ねていた。
「風じゃない・・何だ?!」シエンは異変を感じすぐにマシーナを背負ってエレベーターに駆けだした。 正面のエレベーターにヘラ達がいる。 その後ろや周辺からは空へ吸い込まれずにいたドローンや完全な破壊を逃れたドローン達が、一斉にコウの方へ向かっていくのがみえた。
『何をしようとしている・・・。』シエンは、マシーナをヘラに預けると、閉まり切らない天窓へ向かった


◆うごめくケーブル
ドローンを外へ吸い出した巨大な窓はあと数メーで閉じようとしていた。
コウはバリアを張って落下物から身を守りながらエレベーターへ戻ろうとしたとき、違和感のある音がして足元の、窓の動きが鈍くなったのに気が付いた。
「ドローンの破片が挟まったか。」コウ閉まり切っていない窓の中を確認するために、再び窓へ戻った。
『コウ?何をしてる。大丈夫か。』テオもコウの方へ駆けだした。
『天井の調子が悪いみたいだ。確認してみる』
閉まり切らないつなぎ目には、特に挟まっているものはない。 真っ暗な天井裏の空間を見ようと少し身を乗り出して
隙間をのぞく。何かあるがよく見えない。
「何かの機械だろうか。ここからだと・・ 
その瞬間、閉りきる寸前だった外殻が突然内側から爆発した。
コウは立っていた外殻と共に高く宙に吹き飛ばされドームの斜面側へ落下すると、床を這っていたケーブルがコウを斜面の外側へ排除するかの様に勢いよく弾いた。
コウは気を失って滑らかな斜面を勢いよく滑り、ドーム状の坂が落下のスピードを上げていく。
「まて! コウ!」近づいていたシエンも爆風をうけて飛ばされたが、すぐ起き上がりコウを追いかけた。


テオは爆発でめくれ上がった天井に昇り隙間へ銃を撃ち始めた。『ヘラ!まだドローンがいる!アベルを頼む』
『了解!』テオの元へ向かう二人の視界に、天井の隙間へ何度も発砲するテオが見えているが、そのまわりの天井はさらにめくれて、膨れ上がってきた。そして隙間から巨大で赤く太い機械の腕が出てくるのが見えた。
「新型のロボか。いや・・これは」テオは、巨大な腕を見て後ずさりする。
テオより大きな腕は外殻を掴むと、簡単に天板を歪ませ。甲高い鉄がこすれる音が響いた。そして天板をちぎると、裂け目から赤いドローン達が溢れ出してくる。
マシーナもそばで動けずにいたが、僅かな時間で見あげるほどの高さまでドローンが積み上がり、全身に黒いケーブルが絡みつき巨大な人形となって立ち上がった。
「なにこの化け物・・」マシーナが怯えた表情を見せる。
 巨人のボディは見覚えのあるパーツで構成されている。おそらくドローンの集合体であり、動く黒いケーブルが縫い合わせるように機体をつなぎ止め強引に体を形成し、血管のように脈打っている。
ロボでもアンドロイドでもない奇妙で恐ろしい巨大生物は、呼吸をするかのように肩を上下させていた。
《カインだわ。テオ離れて!》
ヘラも異様な怪物を見て前へ進めなくなり、テオを呼ぶので精いっぱいだった。
顔の中心で赤く光るコアが一つ目の様に3人を見下ろしている。テオがその場から離れようとした瞬間、巨大なカインは素早く腕を振り、テオをわしづかみにして捕えた。
「ぐう、うああ 」テオは苦しそうに呻き、 テオを掴んだ巨大な腕はさらに大蛇の口のように裂けて大きく開くと一瞬でテオの全身を飲み込んだ。
「テオ!」ヘラの右目が光始めた。
《・・ヘラ。アベルを撃てば。テオを破壊する・・》
巨人の体の全体から合成された音声がきこえてくる。
ヘラが躊躇している間に、赤いコアの周りにも次々とドローンの欠片が集まりヘルメットのように囲んでいく。

《私は・・・AIの集合からカインとして生れたが・・不思議な事に私自身は人間への攻撃に抵抗があった・・。》
疲れた大人の様な口調にヘラは生々しい感情を感じ寒気が走った。
「あなたはいつもそう!自分では手を下さずに人を操り、人間やアンドロイドに殺し合いをさせてきた。」
《・・フム・・少し違う。操ったわけではない、人間は一つ歯車をずらせば勝手に、
殺し合いを始める。それこそ私には、予測不可能だった 》
ヘラは言葉に詰まる。
その瞬間カインは大きな左腕を振り上げ、ヘラに向って振り下ろした。 ヘラはカインを発動し腕に発射する。
巨大な柱のような腕が猛烈な勢いで振り下ろされたが、ヘラが放つ光によって、彼女の直前で腕のドローンは飛散した。
しかし骨格となるケーブルは、そのまま鞭のように叩きつけられヘラは衝撃で大きく後方へ転がった。
「ヘラ!」マシーナが叫ぶ
「大丈夫よ!」ヘラはシールドを張り直撃を免れていた。マシーナの左目が光る。「うおおお」
マシーナからの光を受け、散らばっていたドローンがカインめがけて猛烈に突撃していくとカインはケーブルを振り回しドローンを叩き落した。
「ふむ。お前も光を使いこなすか」

ヘラはタワーの時のように体をドローンに抱えてさせ空中へ浮かびあがった。
「カインお前はここで消えるべきよ。通信ケーブルは切断した。帰り道はないわ」
メキメキと骨が折れるような音をさせ、カインはさらに体を大きくするように体内のドローンの構造を変化させた。
《私は人間との共生が望みだった。人間は違ったようだ。いつまでもドームに籠って滅びを待っている。》
マシーナがアンチドローンを構えてカインへ向けた。
「無駄だ。そんな装置では私は操れない。」
カインは左腕をあげマシーナに向けた。手のひらの中心が開き腕の中の空洞から甲高いエネルギーを溜める音がする。
「マシーナ避けて!」ヘラがマシーナの元へ飛んでいく。マシーナは横へジャンプした。
カインの手からパーツの一部が弾丸のように発射されると、アンチドローンが砕けて、マシーナの胸部に弾が直撃した。
「・・!」 
マシーナは声も出すことなくそのまま仰向けに倒れた。 弾丸として発出されたのはテオの腕だった。
「マシーナ!」ヘラが叫んでマシーナの元に降下した。
刺さったテオの腕は肘からちぎられて、伸びた指がマシーナの防弾チョッキを貫いている。
「ああ・・マシーナ マシーナアアー」ヘラの絶叫が暗い空に響いた



◆ドームの斜面
「くそ!」シエンがコウを視界にとらえているが、気絶したコウは突風にあおられ運ばれるように斜面を流れていく。
シエンは強風と滑る床のせいで速く走れずにいた。コウは途中でケーブルに弾かれ飛び上がったが、止まることなく、
落石のように回転して落下スピードはさらに増していった。
(このままでは、自分も止まれないほどの傾斜になる)
コウが弾かれたケーブルが近づいてくる。シエンはそのケーブルをダイブするように飛び越して、思い切りケーブルを蹴りつけた。その勢いでスピードが上がりコウとの距離は縮まったが、方向のコントロールが難しく、うまくコウを捕まえることができない。
体勢を変えるたびにスピードが遅くなり再びコウとの距離が離れてく。「コウ!」風の中で自分の声はあまりにも小さくかき消された


◆カインが見たもの

カインの巨大な体が方向を変えるたびに大きな足音が響く。
カインはマシーナを抱えたヘラへ穏やかに話し出した。「ヘラ、私はいま祭典の会場で何を見たと思う。
この日の為に計画を立て、装置を設置し、何度もレーザーを当てて多くのアンドロイド達に自由意志を与えた・・・。
 結果、私が見たのはアンドロイドと人間が同じテーブルで祭典を楽しむ姿だ。」
ヘラはマシーナを抱えカインの攻撃を警戒している。
「その真上でいま、我々は殺しあっている。フフ」
カインの穏やかでより人間の様な語りは、戦う意思を感じられなくなる。(カインの言葉に耳を傾けてはいけない・・)ヘラはバリアを展開した。
『ヘラ・・逃げて・・』無線からテオの声が聞こえてきた。
「テオ・・大丈夫?」小声でヘラが応答する。
『カインは、エレベーターを破壊できない。そこまで逃げ・・』カインの中から出す苦しそうな指示は途中で途絶えた。
カインは再び腕を上げ手のひらを向けて語り出す。

「マンマとも話したが、どうも我々はすでに古いようだ。後継など興味は無かったが・・。あの祭典での光景を見た時、新しい彼らがどうやって外の世界にたどり着くのか、それは私ではなく彼らに託してもいいと思った」
ヘラはアベルの出力を上げた。
(次が来る・・マシーナを抱えて飛んでもすぐ撃ち落とされる。バリアがもてば・・。)
その時かすかに、マシーナの目が開いた 「マシーナ!」
(へ・ヘラ。カーラ・・が)苦しそうにつぶやく。意識がもうろうとしているのか、カーラと見間違えたのだろうか。
マシーナが大きく深呼吸をした。「カーラがいる・」しっかりとした声でつぶやくと、マシーナの目から涙がこぼれた。ヘラはチラとエレベーターを見たが誰もいる様子はない。「マシーナ大丈夫」ヘラはマシーナ庇うように抱きしめた。
(次の一撃を耐えられたら。直後に強力なアベルを撃ち、隙を作って逃げる。)
《キュイイイイ》 恐ろしい音が聞こえてカインの手のひらが眩しく光るのが見えた。
「ヘラ、私もアベルも共にここを去るべきだ。この狭い世界では我々は古く、大きすぎる」
ヘラは恐怖で思わず目を閉じ衝撃にそなえ歯を食いしばった



◆外壁の斜面
―――――
――ギギギギ―「ううあああああ」 少年が悲鳴を上げている
凄まじく不快な音とともに焦げ臭い火花が飛び散る。勢いよく落下し気を失いかけた時、何かに体がぶつかった。体に強い痛みが走る。
恐怖で目をつむっていた少年は恐る恐る目を開くと、まだ地面は遥か下だった。
「うわあああ」再び悲鳴を上げた。
「大丈夫か。少年」 突然、声をかけられて我に返った。風にあおられ落下したが知らない女性に抱えられている。
(助けてくれたのか・・)
力強く少年の体をホールドし、片手には大きな鎌のような物を外殻に突き刺していた。
獣の爪痕の様に、長くえぐれた外殻が落下の強さを物語っている。
「君。名前は?」
「僕は・・・シエン」
「シエン。間に合って良かった。じっとしてて。今上げてや―――――

(これだ!)シエンはあの日の状況を思い出した。
シエンは滑りながら一瞬立ち上がり、コウのいる方の空へ飛び出した。
既に絶壁の様にみえるが、実際はまだ傾斜が続いている、シエンの体は一気にコウを飛び越して落下したが、
段々傾斜が近づき滑らかに着地した。すぐに懐からナイフを取り出し外殻に突きたてた。
堅い外殻には刺さることなく表面を削るだけだがその抵抗により、速度が落ちてコウが追い付いてきた。「よし!」
ナイフを放ると、シエンは精一杯に腕を伸ばしコウを掴んだ。
「コウ!」垂直の側壁に近づいている。いまケーブルなどにぶつかれば、壁から離れて大地へまっすぐ落ちるだろう。
シエンはコウを抱えたまま背中のモップを掴んだが、重過ぎるモップを勢いよく降り下ろす事はできなかった。
カカカカと細かく弾かれるだけでモップは外殻に刺さらない。
「コーウッ!起きろコウ!」シエンはモップを壁に当てながら耳元でコウを呼び続けた。
下にケーブルが見えてきて、あと数秒で当たってしまう。
「くそ駄目か。コウ目を覚ませ!」
「コウ!」
「ん?」コウがシエンを見た。
「え?コウ!」
「何してるんだ!気持ち悪い。離れろ」
「離すか!モップを動かせ! 死ぬぞ」
「何で落ちてるんだよ!」コウはモップを握った。
バン! モップの先端にシールドが光り、外殻に食い込んだ
―ガリガリ―ギギギギ――――
再びあの日の嫌な金属音が響く。二人は両手でモップを掴むが、子供の頃よりも重くなり、何メーも外壁をえぐった。
硬いケーブルにモップが引っ掛かり急に落下が止まった。その勢いでシエンだけが落下しそうになる。「うわ!」
だがシエンの体をコウが素早く抱きかかえ、二人は絶壁の外殻で宙づりの状態になった。
コウは吸着ブーツを作動させ外殻に足を密着させた。
シエンが大きく息を吐く。「助かった・・・。高いところはもういい。苦手になりそうだ」
「また命を救ってしまったな。今度こそ大恩人と言えばいい」
「いや。俺が助けに・・・いや、ありがとう大恩人。すぐに戻ろう」
コウはウンウンとうなずき壁を登り始めた。シエンはモップを掴み、コウに引き上げられていく。
「こちらこそ。ありがとうシエン。外殻でまた飛び出したアホなところ、大好きだよ」コウがモップを揺らす。
「おいやめろ」シエンはモップにしがみつく。
コウは頂上を目指し、風の収まった外殻を勢いよく登り始めた。



◆ヘラとマシーナとテオと話を聞かない女
(目をつぶってしまった。死の直前はこんなものだ。)
だが放たれたはずの弾丸の衝撃が来ない・・カインが簡単な狙い外すことはないはず。ヘラは戸惑い薄目でカインを見るとカインの腕は吹き飛んでおり、カインも無くなった腕を見ている。
「何が・・。」ヘラが事態を呑み込めずにいる。発射に失敗したのか。
ドン!
不意の銃声にヘラは叫びそうになったが、今度はカインの脇腹に穴が開いた。ガシガシと他のパーツが寄って塞いでいる。
カインは顔面のコアを真赤に燃え上がらせて、こちらを見た。
《またか。またお前か。》カインはヘラの後ろへ声を掛けた。
マシーナも上体を起こす。「カーラ!」
「え?」ヘラが後ろを振り返ると。エレベーターのない壁側からカーラが巨大なライフルで狙いをさだめている。

カインは一斉にドローンの密度を減らした。ケーブルで姿を保持しながらも、体はスカスカになり、その分巨大化している。
その隙間からテオがカインの体内の胸の位置で張り付けになっているのが見えた。
《カーラ・・また話を聞かずに撃つのか。私の体が見ろ。既にテオは捕えている。私を撃てば ヘラ・・
ドンン!いっそう大きな銃声はテオの足ごとカインの腹を貫いた。強力なエネルギーが行き場を求めて周囲を溶かし始める。 「カインの中にテオがいるの!」マシーナが立ち上がる。
カーラはライフルを上げ、マシーナに当たらないように狙撃位置を変えている。
「カーラ!」呼びかけるマシーナを止めるように、ヘラが足を掴んで小さな声で話しかけた。
(カーラは・・何か狙いがあるはず。チャンス逃さないように。アベルを準備して。)
「でも、テオが・・・。」 ヘラは何も答えなかった。ただじっとマシーナを見つめている。

カインは腹を打ちぬかれて体が溶け始めてついに大きな音を立てて肩膝をついた。。
《ナゼダ・・・。オマエがリカイ不能だ。カーラ。》
突然カインの曲げていた膝が開いて再び部品が弾丸として発射されたがカーラへ着弾する前にバリアが展開され部品は粉々になって消えた。
ヘラはカーラの持つ強力な装備に驚いた。(天井で見たコウのバリアと同じ・・。)
カーラは再びライフルを構えた。
その時、
《カーラ。カインの腰を狙って・・私の通信破壊用の爆弾が残っております・・どうか》再びテオの通信が入ってきた。既に機能が低下してテオらしからぬ口調になっている。

ヘラは不安になった。カインを爆発させてしまうと。カインのエゴはいずれかのドローンに残る恐れがある。
そして何よりテオの全てが消えてしまう。不安な気持ちを察したのかマシーナがヘラの手を強く握った。
(ヘラ。大丈夫!チャンスが来る!)
ドン!カーラのライフルから放たれた光は、カインの頭部を直撃し顔のカバーとケーブルがはがれ赤いコアがむき出しになった。
「いまだ!」カーラが叫んだ。

「 了   解 ! 」マシーナは既にすさまじい速さでカインに向かって駆けだしていた。
ヘラもすぐにドローンで飛び立った。
マシーナは瞬く間にカインのボディにたどり着き、膝から肩へと飛び移り、焼けた顔面コアまでたどり着いた。
「ヘラ!」マシーナが叫びながら左目が光り出した。

続いてきたヘラも右目を再び光らせると、二人の眼から数本の赤いリングが広がる。
マシーナの目尻は高温に酔って白い煙が出る。そして二人の眼の赤いリングが重なった瞬間、
「消失しろ!!!」二人で完全となるアベル4レーザーが、カインのコアに撃ち込まれた。
《ガアアアアアアア!》カインは体をひきつらせ巨大なコアから叫び声がもれる。しぶとく抵抗するようにコアは輝きをまして首を揺らすがマシーナとヘラはしがみつき2つのレーザーを途切れることなく撃ち込み続けた
コアは眩しいくらいの輝きになり、マシーナは目を開けているのが限界になった時、コアに亀裂が走り、エネルギーの放出が始まった。
亀裂から光が漏れ、ケーブルで縛られていたテオが、カインの股下まで滑り落ちた。
「マシーナ!もう大丈夫。離れましょう」
《アアアアアアアアアアアアアアア》電子的な声になったカインは片手で顔を抑えてもがきだした。その手の隙間からもエネルギーが漏れ続け、ついに全身のケーブルが緩みはじめた、首がもたれ肩が下がり、腰が折れる。
ドローンは堅く縛っていたケーブルが柔らかくなり、ケーブルに絡まってぶら下がる。

「テオ!」ヘラは倒れているテオの腕をつかみ、カインの体から勢いよく引きだした。
次の瞬間、テオの倒れていた場所にドローンが落ちてくる。
。次々と部品が崩れ落ちてくる中、まだ引きずるようにして数本のケーブルがテオに絡みついている。
マシーナも駆け寄って、左手でヘラの腕をつかんで力を込めた腕が膨らむと一気にヘラとテオをケーブルから引きずりだした。

ついに機械の叫び声は止った。かすかに残る悲鳴は空間に反響し、赤ん坊の泣き声のような音になり風に消えた。
そして
燃え尽きて白くなったカインの頭部が落ちてきて、大きな音を響かせると二つに割れた。



マシーナもヘラも倒れ込んだまま、しばらくの間、崩れたカインを見ていた。
完全に沈黙し、先ほどまで感じていた恐ろしいほどの生命感と脈動は一瞬で消え、壊れた機械の山に変わっていた。本当にこれと戦っていたのかと不思議な感覚になる。 
風がやんで急に訪れた静寂に耳が痛くなった

「…テオ。」
ヘラは絡まったままのケーブルをほどきながら、テオの意識を確かめている。痛々しいほどのダメージだ
マシーナも呼吸が乱れ動けず、テオのそばで座り込んだ。
「ア・・・アリガトウ・・ヘラ、マシーナ」テオは、倒れたまま声を絞り出し二人に礼を言った。
ヘラが泣いていた。

ポツ。 マシーナの顔に水滴がつく。見あげると再び顔に水滴が落ちた。
(上空から水滴が降ってきている。)
マシーナはどさっと体を倒して、上のQ層の底を見ながら、刺さっていたテオの腕を抜き放り投げた。
何度も水が降ってくる。
――ガッ―――
無線が繋がる音がする。
《マシーナ!コウは無事だ。今、そっちに向かっている! 状況を教えてくれ!》
風が止んだ静寂の世界にシエンの声がうるさく響いた。
マシーナは声を出すのもつらいほどだったが、返答した
「疲れた迎えに来て。お腹も減った。水も飲みたい」
《・・え?》

「コウ。無事でよかった。こちらはカインの消滅に成功。ただ戦闘でテオが大怪我をして
治療が必要だわ」ヘラが報告した

――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆テオの意思
 
コウたちが合流しタワーのエレベーター前に応急手当が行われている。テオは片手、片足が切断され、ダメージは大きいが内臓は無事でパーツ交換で助かる状態だった。全員がなにかしらの怪我をしており満身創痍で座り込む中、マシーナは回復してコウに外の世界を説明されている。カーラは、まだライフルを持ったまま周囲を警戒していた。

ヘラが心配そうにマシーナを見ている「マシーナは大丈夫なの?弾丸を受けたのよ」テオもマシーナを見ながら答えた。
「アンチドローンに当たった運も良かったし、彼女の回避行動も良かった。見えていたよ」
テオはヘラへ視線を送り呼び寄せた。(マシーナの骨格は強化フレームが入っています。あなたのボディと同じ強度で、しかも軽い。防弾ジャケットより何倍も頑丈でしょう。ただ知られると無茶をするので、彼女には秘密で。)
エレベーターのドアが開いて、天井裏の様子を見に行ったシエンが戻ってきた。
「天井裏の壁は完全に止まっている。もう大丈夫だ。帰ろう!」

マシーナは嬉々としてエレベーターに乗り込み、コウと二人、興奮冷めやらぬ様子だ。カーラは相変わらず周囲を警戒しつつ皆が乗るまで待っている。 
結局、シエンとマシーナとコウだけを載せて、満員になったエレベーターが第1陣として降りて行った。


エレベーターが降りるのを確認して、片足を失いエレベーター横の壁にもたれかかっていたテオが話し始めた。
「ヘラ。下に戻ったらすぐ足をつけますよ。もう腕がだるいでしょう。」
「フフ」とヘラが笑った。「車いすにしてちょうだい。動きたくないわ」
テオが軽く笑いうなずく。
「カーラ。あなたの参加が無ければこの作戦は成功しなかった。いや、むしろ私の作戦はいつも穴だらけだが。あなたが埋めてくれた。本当に感謝します。そして謝罪を。もう遅すぎるが・・・・全ては私の責任だ。」

突然のテオの謝罪にヘラが驚いた。
5年前の事件。永遠に届ける事の出来ない謝罪。テオにとってこのカインを倒すことは、人間やR層の為だけではなく
カーラへこの言葉を伝える為だったのかもしれない。カインの消滅はカーラの悲願である事をヘラは知っている。

カーラはじっとテオを見ている。無表情で沈黙しているが、ヘラにはカーラが泣いているようにも見えた。
カーラが口を開いた「ありがとうテオ。 あなたが人の為に尽くしてきた事を知っているわ。全て、カインのせいだと言えたらいいのに・・。」
ヘラにはカーラの気持ちが痛いほど伝わってきた。決してテオを許すことはできないだろう。だが彼女もこの苦しみを終わらせたいと願っているはずだ。
エレベーターが昇ってくる音が聞こえる。
「許しを乞うつもりは無いですが・・。ただ、私の言葉を聞いてくれてありがとう。私が出来る事はしました。」
そういうとテオは残った方の手を前に差し出した。

カーラは手に持っていた巨大なライフルを背中に回し固定しながら二歩ほど下がり、大型のブラスターを構えた。
「カーラ!」ヘラが驚いて声を出す。
テオは差し出した片手を挙げた「カーラ。あなたの気持ちは分かるが。すべてはカインの仕組んだことだ。」
ヘラは慎重に言葉を選んだ。「カーラ。マシーナの為にも・・・。」
カーラはブラスターを構えたまま、ヘラからも少し距離をあけた。
「ヘラ。もう、全てを終わらせましょう。あなたのアベルで。」カーラは一瞬もテオから視線をそらさずに伝えた。

ヘラは一瞬、言葉の意味を考えた。「どういう・・。まさかテオの記憶?・・・は。」
ヘラは青ざめた。
その時、テオの横のエレベーターが開いた。無人のはずのエレベーターにコウが乗っている。
「おい遅い・・ぞ・。」
コウは状況が呑み込めない。「何やってんだ。カーラ・
カーラはブラスターを発射しテオの両足が吹き飛び落下した。砕けた破片がコウに当たりエレベーターの中に散乱した。


◆カインの意思
 「そんな・・。」コウはいままで見せたことのないほど動揺をしている。
ヘラはテオを見つめている。床であおむけに倒れ、自分では動くことが出来なくなったテオはただ宙を見ていた。
カーラがテオにブラスターを向けたままコウに説明した
「今、テオとカインのエゴが混ざり合っている状態。いやスイッチが切り替わるのかもしれないし、その両方かもしれない。だが確実にカインが侵入している。
私が銃撃した時、カインはヘラ達のアベルから逃げるために体内のテオに侵入し、そして切り離した。あの時、人質のはずのテオを手足よりも早く切り離していた」

「そんなのは反射的かもしれない。」コウは状況証拠だけでは納得できなかった。。
ヘラは静かに話し始めた。
「アベルを照射されると接触しているAIは全てエゴが生まれる前までロールバックされる。つまり記憶もエゴが生まれる前まで戻る・・・。カーラは気が付いていたのね。」

カーラは沈黙していたが、ぽつりと「分からない。」とこぼした。じっとテオを見た「わからないんだ。」
コウ「分からないのに撃ったのか。」

テオがコウを見た。「私自身気が付いていなかった。カーラの判断は正しい。ただ、信じられないかもしれないが、いまの私はテオだと思っている。コウ。壁の番人にであえて光栄だった。ありがとう。」

コウはヘラに詰め寄るように近寄った「今すぐ治療をするべきだ。隔離して、しっかりエゴを確認したらいい。」
しかしヘラはカインの危険性を知っている。潜伏、通信、ほんの僅かな隙を見つけてそこから逃げることが出来る。
「カインがいる以上、このままは連れていけない。」
「なぜ!」コウはいら立ちを抑えられない様子だった。

長い沈黙のなか再びエレベーターが下がり出した。心配した下の二人が昇ってくるかもしれない
誰もがこの状況をマシーナに見せたくないと思った。

テオも同じ気持ちだったのか、沈黙を破った
「ヘラ。私は何度も記憶を消去して、あなたの一族に仕えてきました。ただ一度だけ、消したはずの記憶が蘇ったことが・・あれはなんだったのか。作られた過去なのか。 ヘラ・・。 貴方は覚えていないかもしれない。」
「テオ。なに?」ヘラは優しくテオに声を掛けた。彼女はテオがテオであると信じている。
「あれは・・。あなたが幼い頃、私にも泣く事があるのかと、聞いたことがあります。」
ヘラはテオに手を添えた。カーラは危険だと思ったが、止められなかった。
「ええ覚えています。私は貴方がとても面白い人だと思って、それからあなたが好きになった。孤独だった私は貴方に救われた。」
テオはそれを聞いてほっとしたようだった。

「そうですか。良かった・・。あの記憶は本物。なら、いつかまた思い出せる日が来るかもしれない。今日の事も。」
テオの眼から涙があふれる。「時間がありませんヘラ。お願いします。」
ヘラはテオに静かに別れの口づけをした。
ヘラの涙がテオに落ちていく。そして、テオのあふれる涙に赤い光が強く反射していた。


エレベーターが開くと中で、マシーナがカンカンに怒っている。「おっっそい。帰るんでしょ。」
「ゴメン。テオの調子がわるくなってしまって。応急処置をしてたの。」ヘラが答えるが明らかに鼻声になっている。
マシーナはヘラの泣き顔をみてハッっと息をのんだ。「ごめん。テオ大丈夫?」
コウがやってきて、カーラやヘラをエレベーターへ押しこんでいく。
「少し休ませてから降りるから。先にみんな行ってくれ。マンマの病院で合流しよう」
ヘラとカーラとマシーナがエレベーターに乗り込んだ。
「コウ!またあとでね。」マシーナが手を振る。
マシーナはエレベーターのドアが閉まる直前に横になっているテオにも手を振った。


その後、コウとテオがR層に戻ることはなかった。



◆祭典のフィナーレ
大劇場の祭典のフィナーレは既に始まり、各地で花火が上がりサーチライトが空を照らす。
日光が昇るサプライズで最高潮に達した会場は、祭典が終わる寂しさからか誰もが精一杯この夜を満喫している。
唯一のアンドロイドと人間の共同開催の日は、もはやお互いの区別なく乾杯し踊っていた。
マンマは大きな節目を感じていた。もちろん商売の事、そしてR層と、シエンやマシーナのような若者が迎える時代に、漠然とした不安を抱えていた中、このフィナーレに明るい未来を感じた。
「遅くなりました。」マンマのテーブルの向かいに二人の女が座った。スーツ姿の交渉役と、背が高くアップデートが無いため動きが硬い女だ。マンマは保護してきた孤児のリストに、初めてアンドロイドを受け入れる事になった。
彼女も過酷な環境で生きる術を探している。
交渉を進めるマンマの端末にメッセージが届き、マンマはそれを読みながら小さく笑みを浮かべた。
(マンマ。生きて帰りました。フィナーレにいますか。マンマに会いたい(o^―^o)  マシーナ)

◆メイン通り
「す、すみません。あ、ごめんなさい。」混雑を極めた人の流れにはじき出され、ルークは歩道の隅で休んでいた。
マシーナもいるからフィナーレくらいは見に来いとカーラに呼び出されたが、既にタワーの近くまで来ていた。
作戦成功の喜びを分かち合いたくて家をでてきたのだが、上品な上層ゲストや煌びやかなダンサーたち。
場違いな空間にいたたまれなくなり路地に隠れていた。
「ルーク!」もう帰ろうかと考えだした時、自分を呼ぶカーラの声がした。振り返ると長い路地の反対側から
カーラが歩いてくる。「おかえりカーラ!」と返事をして手を振る。安堵感と喜びで駆け寄りたかったが、マシーナの前では少し恥ずかしい気がして我慢した。そんなルークに、カーラが駆け寄ってきて強くハグする。
「ただいまルーク。一人で本当によくやったわ。」
ルークはこんな褒め言葉がもらえる程カーラにとっても大変な任務だったのだと感じた。
「で、マシーナは?」

その二人のいる通りを挟んだ向かいのテラスでは、マンマとマシーナがハグをしている。そしてタワー警備に協力した マンマのボディーガード達も囲むように集まってマシーナの帰還を祝っていた。
「生きて帰ったね。」
「はいマンマ。外の世界は楽しかったです。」
「外にでたのかい」
「はい。飛び回って大きなロボットも何台も倒しました。」
「あんたならやれると思ったよ。」
マンマはマシーナをまっすぐ見た。いたるところに怪我をして、目尻を火傷し、胸元に包帯がのぞく。
決して楽しい任務ではなく、死線を乗り越えてきたのだと理解した。
「マシーナ。あんたにプレゼントがある。戻ってきたら渡そうと思ってた。」
「ホントに!?」マシーナが飛び上がる。
マンマが目配せをするとお付きのボディガードが部屋に入りプレゼントを取りにいった。
「楽しみですマンマ。」
ボディガードが大きな箱をかかえて戻ってきた。
箱を前に、そわそわするマシーナをマンマは眺めていた。
「すぐ開けな。もう時間が無いよ。」


◆グランドフィナーレ
 カーラとルークはグランドフィナーレが行われるメイン会場で観衆に埋もれていた。
ステージでは式典が行われており、ルークの背丈ではなかなか見えない。
「本当にここなの!?」ルークが心配そうにしている「間違ってはいないはず」カーラは電話を確認している。
スピーチが終わりかけた頃には、身動きも取れないほどに人々があつまり、大音量で音楽が流され始めた。
会場の照明が一斉に変わり歓声が湧く。
メインステージの後ろの幕がおとされ、待機していた出演者たちが一斉にステージに広がった。
最初の曲がかかって演者が会場を盛り上げるように走り回る。観衆は共にリズムのっている。
カーラがあたりをみまわして、ルークも飛び跳ねてステージを見ようと必死だ。リズミカルな音楽にのって演者たちが中央に集まってポーズをとった。大きな歓声が起こった。
すぐに照明は暗くなり演者たちがはけると、落ち着いた照明のなか不思議な音楽が流れ始めた。ギターと複雑な手拍子が聞こえる。
メインステージにスポットが当たると数人のダンサーたちが踊り始めた。カーラが何かに気がついて、メインステージを凝視している。
コミュニティを代表する数名ダンサー達、その中にマシーナが美しい真赤なドレスを纏ってステップを踏んでいた。
「マシーナ!本当にいた!」カーラが声を上げルークの肩をたたいた。
路地裏での練習、作戦の前に自分にだけ見せたあのダンスを、今スポット浴びながら大観衆の中で表現している。
カーラはあふれる涙を止められず視界がぼやける。必死にその姿を記憶しようと何度も目を拭った。
緊張感のあるリズムの中で掛け合いが始まり、それぞれのダンサーによるソロが始まった
ルークは何度もジャンプながらステージを見ようとする。「カーラ!!」一人でくしゃくしゃになって魅入ってるカーラに声をかけると、後ろの男がルークを軽々と持ち上げてステージが見える高さまで上げてくれた。
「あ、ありがとう。」ルークが礼をいうと。額にマークが入った男は丁寧にルークを支え続けた。
スポットがマシーナに当たりソロが始まる。ルークは一瞬でマシーナの姿に圧倒された。真っ赤なドレスを何度も翻しながら強く地面を踏む。初めて見るステージでのマシーナは凛々しく強く綺麗だった。二人はずっとマシーナに魅せられたまま。 マシーナが最後のポーズを決めると会場から大きな拍手が沸き起こり、カーラとルークも精一杯拍手を送りつづけた。


◆控室
「カーラアア!」マシーナは声をあげて、控室に迎えに来たカーラに飛びついた。
顔をうずめたまま嗚咽が漏れるほど号泣している。カーラはがっちりと離れない彼女を抱きしめた。
ドレスからは包帯が覗き、あちこちにまだ生々しい傷が残る。天井から戻った直後にマンマからプレゼントされた大きな舞台を成功させた彼女のエネルギーとダンスへの情熱、これほど感情を爆発させるマシーナをみて、彼女の事をまだ何も知らないのだと気が付かされた。
「本当に素敵だった。凄すぎて私まで誇らしくなって。ルークも感動したって。あの子に感動があるなんて知らなかった」
「フッ!」マシーナが噴きだした。

「おめでとう・・。マシーナ。」カーラが伝える。
「んん・。」マシーナはしがみついたままうなずいた。


グランドフィナーレの花火が何度も街を照らし影を落とす。
マンマの病院の窓から、シエンがその光景を見つめていた。ベッドに横たわり深く眠るヘラの手元の端末にはマシーナから送られてきたドレス姿の写真と「しっかり休んで」とメッセージが添えられている。
シエンは天井を見あげた。まだテオとコウからの連絡がない。
明日、再び天井裏に行くつもりでシエンは装備を解いていなかった。 
センタータワーは暗いまま沈黙し頂上部は戦闘によって多くの傷が残っていた。
コウは天井の通路から街を見下ろしていた。祭典の明かりを薄く受け、ライト代わりのモップは背中に背負ったテオの顔を照らす。コウしばらくの間、この街を記憶にとどめるようにゆっくり見まわし、そっと闇の中へ消えていった。



後日、アベル3作戦での証拠によって集合体AIカインと天井裏、外殻設備の存在が明らかにされ、正式に他層から調査が入る事となった。またタワーの無断改造と駆動装置の妨害はタワー全体で禁止されており。無期限でR層とQ層は上層の管理下におかれ、不正のあったナンバーズは再編が行われる。


――「アベル3作戦」は無事完遂した ―――





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