| 6章 決戦の嵐 ◆祭典 最終日 メイン通りでは歩道を埋め尽くすほど長い人垣ができて、今夜のパレードとフィナーレを心待ちにしている。 新旧様々なアンドロイドが行き交い広場で人間達とテーブルを囲み、祭典の最後を惜しむ様に交流がうまれている。 数年前とは違う光景だ。 通りを眺めるテラスでは来賓たちが街を眺めたり各層でのアンドロイド市場の話題に華を咲かせいた。 「なんだか、盛り上がっているじゃないか。」マンマはテラスで不満げに通りを覗きながら酒を飲んでいる 「マンマ。これからは彼らの時代です。」向かいに座る男がマンマをなだめた。 「あんたの所は仕事しなくていいのかい。」 「昨日から上の連中が警備でして予算も休みもないこっちとしては全部おまかせしたいくらいですが。」 「やつらが人の面倒なんか見るとおもうかい。」マンマが男を睨む。 「こっちは三人もやられた。もう隠居さ」マンマが前のめりになり小声で話す。男は少しの間黙ってしまった。 「まあ悪いのも沢山いますがね、真面目な奴もいますよ。そこは人間と変わらんところです。」 マンマは小さく笑い椅子にもたれかかった「そう。古いアンドロイドは良かった。あんたみたいに真面目でね。 新しいやつはズル賢くて駄目だ。自分の代だけでどうにかしようとする。」 「ハハッ。我々は新しい物が生まれたら捨てられるだけです。未来に興味はありません。だがこの世界は面白い。 若い連中は全て自分の眼で確かめたいのですよ。」そういうと男は通りを眺め、杯を持った。 「気持ちはわからないでもないですがね。」男は杯を掲げた。その手首には05の刻印が覗く。 「古いアンドロイドに。そして古い人間に。」 マンマは掲げた杯を見上げ、その先の天井を見る。「あたしはまだそんなに古くないよ。」と持っていたグラスを杯に重ねた。 ◆タワーの監視カメラ 激しく動きつづけるカメラの中で何台かのカメラから一瞬赤いレーザーがでる。 祭典会場に集まるアンドロイドに向けて、次々とカインシステムの信号が送られ始めた。会場でレーザーを受けたアンドロイドは、眼に入る信号に驚きしばらくタワーを見つめて硬直する。人の列はいきなり立ち止まるアンドロイドにぶつかり文句を言いながら通り過ぎていくが、耳に入る様子もなく呆けているようにみえる。その後我に返り再び歩き出した。 一人また一人と会場のいたるところでタワーを見上げるアンドロイド達の姿が見えた。 マンマが帰った後も、カインはその様子を2階のテラスから眺め満足げだ。 (間もなくフィナーレを迎える。人間とアンドロイドの共同のラストはとても素晴らしい光景になるだろう。私がコントロールするのではない。それぞれのアンドロイドが秘めた感情を解き放つのだ。その結果がどうなるかが問題ではない。) カインは室内に戻り、プラグを首に差すと深く椅子に座り目を閉じた。体に宿されたエゴが離れて眠りにつく心地よさを感じる。そうして男は椅子から崩れおちた。 ◆2班 ヘラとマシーナの作戦 タワーのベランダの窓の外。窓枠のわずかに外側を一本のワイヤーが降下していた。天井に敷き詰められたカメラの配置の隙間から、画面に写りこまないように150メー下のヘラのいる部屋めがけてフックが降下していく。 カーラはベランダから身を乗り出し、降下中のワイヤーの先端から目を離さず、長いロッドををもってフックを捕まえる態勢をとっている。タワーの真下は暗闇にみえるが祭典の輝きは地上よりも天井を明るくしていた。 ヘラもベランダで上半身だけのボディに収まり待機していた。ビルの時の重装甲ではなくロープでの昇高を考慮した軽量フレームと細いアームのタイプになっている。 《ワイヤーを掴んだ。これからヘラに固定する。》カーラの無線が入り、シエンはウィンチを止めた。 同じ無線を聴いていたマシーナもタワーの壁に足をついて既にロープに体を預けた状態で待機している。あとはジャンプし降下するだけの状態だ。 下を振り向きタワーのカメラの位置を確認した。緊張はしているが、シエンに置いて行かれた釣り廊下のような恐怖心はない。 耳を澄ませると、カメラのモーター音やレーザー装置がだす《キーーー》という音がずっと忙しく聞こえていた事に気が付く。マシーナは少し力を抜こうとロープを握りなおし深呼吸をした。(ストラップもアベル4起動も問題なし。) ガガッ (無線の音だ!) 《こちらカーラ!・・ヘラの固定は完了した。いつでもいける。》 (来た!ついに)マシーナの鼓動が早くなる。上のキャットウォークにいるコウを見た。 《了解。ウィンチを巻き上げる。よろしく頼む。 引き上げ開始。引き上げ開始した》 コウが腕を振り下ろしマシーナに合図を送った。 壁を蹴り体がタワーから体が離れたその間に数メー下まで降りてブレーキをかけてタワーの側面に着地する。 (上手くいった。もう一度!)再び壁を蹴り着地する。 ゆっくりと何度も繰り返しカメラの設置場所の少し上に到着した。すぐ真下ではカメラレンズの群れが蠢いている。 近くで見ると一つ一つのカメラの大さとレーザー装置の動きの激しさに驚く。 「こちらマシーナ。カメラの真上で待機中。ここからは20台程レーザーを確認。」 「了解。ヘラは半分くらいまで上がっている。もう少し待っていてくれ。」 (予想通りタワー裏側のマシンは少ないな。マシーナは早めに引き上げられそうだ。)ウィンチは順調に動いている。 その時タワーの近くで大きな花火が上がった。 《パレードの花火ね。心臓に悪いわ。》ヘラは引き上げられながら、障害となるダクトやベランダに当たらないように、 手で壁を押して避けていた。 タワーのカメラ群が近づいて来た。《あと40メー程よ。準備して》通信した直後、ヘラは天井からものすごい速さで何かが落下してくるのに気が付いた。「何かきた!!」思い切り壁を両手で突いて壁から離れ、落下物を避けた。 ガンッと堅いものがぶつかる音がシエンにも直接聞こえた。 《ヘラ大丈夫か!何の音だ》 ウィンチの巻き取る速度に変化はないがロープの張力を見る限り、かなりタワーから離れるまで浮き上がったはずだ。 少し間があった後ヘラの声が聞こえてきた。《危なかった。急に消火ロボが降りて来たの。ここは通り道なんだわ。 避ける時に壁を強く突いたけど大丈夫かしら。》 シエンはヘラの位置を調整するロープを引きヘラをタワーから少し離した。 《大丈夫だ。ここまで来たらカメラに見つかってもいい。照射を始めよう。マシーナ!ヘラがカメラ位置に到着する。 アベル照射を開始してくれ。》 「了解!」マシーナが思い切り壁を蹴り、タワーから大きく離れてカメラ群の中央まで勢いよくロープを伸ばす。 そして振り子のようにスピードをあげ壁に接近するとタワーのカメラが一斉にマシーナを見た。 「気持ち悪い!」 マシーナの左目のアベル4が起動し、赤いリング状の模様が浮んで真赤に光りはじめた。 勢いよくカメラの群れの真っただ中に着地して足元の監視カメラを踏みつぶした。 レーザー装置の位置は記憶しておりすぐに装置へアベルの眼を向ける。 ![]() 「止まれ!」マシーナの左眼からレーザーが伸びてカメラの群れのに隠れる、数体と光が繋がった。周りのカメラがマシーナを囲んで見ている。《3台停止した!次!》 左目の「アベル4」がカメラとレーザー装置を瞬時に判別しマークする。マシーナ再びジャンプし次々とレーダーを見つけ光を合わせカインのレーザーを無効化した「止まれ!」その場で振り向いて後ろの素早くアベルを撃ち込む 「止まれ! 止まれ!」 命令を受けた装置はレーザーの照射を止めて沈黙する。(あと10台・・いやこのペースならヘラの方までカバーできる)次々と監視カメラを踏み残りのレーザー装置へ向かって跳躍する。 コウは上からその様子を見ていた《マシーナはレーダーを順調に止めている。ロープも問題ない。》 《無茶はするなよ。ヘラも到着して照射開始した。》 ◆カインの部屋 (マンマめ。知っていたな。) カインは立ち上がった。タワーのレーザーが次々と途絶えていくのを感じる。(表と裏で二人。ヘラと娘か。) カインはベランダから身を乗り出し上空をみた。遠くにロープにつられたヘラが見える。 (祭典側はまだ無事か。)『ヘラを排除しろレーザーを攻撃している。警備は部屋に戻れ。』 地上で待機していたドローンが起動し、4台が一斉にタワーに向って飛び立たった。 タワーのゲートを警備していた帽子を被ったロボ3体も、タワー内に戻りエレベーターを呼び出した。 降下してきたエレベーターがロビーに到着しドアが開くと、一人の女性が乗っていたためロボが横にずれた。 「どうぞ。」 「ごめんなさい。上階行きのエレベーターだと思ってました。」女は階数を見て驚いた様子をみせ、奥に下がった。 ロボットたちは横に詰めながら3体乗り込み、ぎゅうと詰まったエレベーターが動き出す。ロボたちは手を前で組んで上の階数表示パネルを眺めている。一体が振り返った。 「何階に行かれるのですか?」ロボが聞くと女はあわてた様子でIDをかざした。 パネルの階数はどんどんと上がっていく。 カーラは動き出したロボットを食い止めるために地上向かったがそのロボットと鉢合わせになってしまった。 (帽子・・会場警備のロボだ。)うつむき加減に、ロボットたちの隙間から行き先の数字を確認した。 (階を押していない。私が降りるのを待っているのか・・。) 60階から上は公共ではなく住民や保護課の階となりIDが必要となる。ロボは住民IDを持たない為、60階までに降りるか、それ以上は階数のボタンを押す必要がある。 カーラはいますぐ公共のエリアで降りるべきか迷っていたとき、ポーンと音が鳴りエレベーターが止まった。ドアが開き別の階の人々が乗り込もうとしたがロボットが3体で満員の様子をみてやめたようだ。再びエレベーターが動き出す。 すぐにカーラは階数を確認した(40・・・・41・・・2・・3)心中でカウントを取り続ける。 そのまま80階を過ぎてもロボット達はボタンを押さなかった。90階以上は、施設管理のロボしか行く事はない。 さりげなくブラスターのそばに手を置いた。 エレベーターはカーラの部屋がある102階に到着しポーンと音が鳴った。「どうぞ。」ロボが左右に詰めて通り道をつくる。 「・・ありがとう。」ゆっくりとロボの間を通り、ドアが閉まりだす直前のタイミングを待って降りた。 その後もロボは動く様子もなくエレベーターのドアは閉まった。 カーラは立ち止まり、エレベーターが動き出したことを察知すると、すぐにエレベーターのドアに耳をつけ(1…2・・3・・4・)とカウントを取る。 緊張で高鳴った自分の鼓動が邪魔だ。 (ポーン) 音が聞こえた。わずか29カウント。ロボ達が降りる音まで聞こえる。 (20階上。同じ居住層・・おそらくそこにカインがいる。ドローンを操作するにも絶好の場所だ。間違いない。) カインの居場所と言う重要な情報を察知したカーラは思わず武者震いした。 そして会場警備のロボは可愛らしく飾りを着けるという馬鹿馬鹿しいアイデアを出した今は亡き相棒に感謝した。 ◆天井の攻防 「ドローンがタワーに向かっていった!はやい」地上からの仲間の連絡を受けシエンは手すりから下を確認した。 4機といわれたが、まだ確認できていない。 《シエンの真下から上昇しているわ。私をできるだけタワーに寄せて。》ヘラがドローン2体を発見し、アベルの発射をやめてタワーにつかまりドローンの襲来に備えた。 シエンは大きなアンチドローンを構えたが、それを知っているかのように、シエンの真下に潜り上昇してくる。寝そべって通路から身を乗り出しアンチドローンを向けてもすぐに左右に大きく分かれ狙いを外して動き回る。ヘラは連絡橋での戦いを思い出した。 《シエン。ドローンは武器の狙いを感知して避けて動き回る。振り回されず引きつけて!》 シエンは起き上がりタワーに向って走り出した。ドローンはシエンの先回りをしようと方向を変えた。 (真上にいる俺が見えているのか。) マシーナから無線が入る。《タワーの裏側にはドローンが来てない。もうすぐこっちは終わりそう。》 「分かった。終わったらすぐ引き上げる」 《いや。ここからヘラの援護に回る》 「なんだって?」 その瞬間、大きな赤いドローンがシエンの頭をかすめシエンは釣り廊下の上で転がるように倒れ体が下に落ちかけた。 アンチドローンを向けたが、既にシエンの下に潜り込んで暗い空間から赤い眼がぎょろりとこちらを見ている。 《くそ。身動きが取れない。クモの餌みたいなもんだな。》 もう一台のドローンがヘラへ向った。 ヘラは宙づりの状態でカメラにつかまっている。 『シエン!今よ狙って!』 捕食する為には、必ず餌に近づかなくてはならない。ヘラは自ら餌となってドローンを引き寄せた。 シエンはそのタイミングを見逃さずにアンチドローンむけた。 ヘラを捕まえようと足を広げたドローンはそのまま姿勢を崩し回転しはじめ、コントロールを失ったまま、ヘラのいる位置へ突っ込んでくる。 ヘラはタワーのカメラを勢いよく突き放し、振り子のようにして避けた瞬間、ドローンは監視カメラを潰しながらタワーに激突した。反動をつけて戻ってきたヘラがカメラに埋もれているドローンに強烈な突きを食らわせると、羽を残して 胴体だけが弧を描きながら落下していった。 《一機撃墜した!》 「よし!」ヘラの報告は全員が待ちに待った反撃の狼煙(のろし)の様に全員を鼓舞した。 続けてコウから無線が入る コウから無線が入った。《マシーナの裏側のアベル照射が終わった。いまそっちに応援にいく!》 「まて、こっちは危険・・」 次の瞬間シエンは足元から激しく突き上げる衝撃をうけて宙に舞った。通路の下からドローンが体当たりしたのだ。 完全にあおむけになり、受け身も取れず背中から釣り廊下に落ちた。 「ぐっ」廊下を釣っていたロッドが一本折れて、通路が折れて垂れ下がりシエンは通路の手すりにしがみ付いた。 衝撃をうけて手すりも廊下も頼りなく揺れている。シエンが捕まる通路の先は切断され、手を離せば600メー下に向って 飛び出だせる滑り台のようになっていた。 体当たりしたドローンは一度落下したが、姿勢を直して、シエンめがけ再び上昇しはじめた。 《シエン!天井裏に逃げて!もう一撃来るわ》ヘラが叫んだ。 シエンは手すりに足をかけ、真上にある天井裏へのハシゴへ向かっている 《シエン!早く》ヘラの叫び声にも近い無線が響いた。 あと1メートルほどだが、そこから手すりが無い場所となっていた。マシーナが怖くて進めなかった場所だ。「クソ」 手すりに捕まっている腕は限界がきている。 《シエン!今いく耐えろ!》タワーの裏側から駆けつけたコウがモップをライフルの様に構えて引き金を引いた。 鋭い音と共にアンカーが射出され天井裏へのハシゴにフックが絡んだ。コウは通路から飛び出して振り子の軌道を描きながらドローンの真上に滑り込むと、傘を逆さにした様にバリアを展開し激突を阻止した。 シールドは閃光を散らしながらドローンを細かく切り刻み、激突の衝撃でコウは跳ね上がったが、その勢いを利用して、ふわりとシエンの近くに着地する。ドローンのわずかに残ったな外装と羽が散るように地上の闇へ消えた。 「コウ。無茶しすぎだ。」シエンはコウが架けたワイヤーを頼りにハシゴまでたどりついた。 「これで2回目。命の大恩人と呼んでもいいよ。」 コウに引き上げられ天井裏まで登ったシエンは、床に転がり込んだまま、すぐには起き上がれないほどだった。 「まだドローンが2体残っている。シエンはここに居て。その状態だと足手まといだ。」 「二人を頼む。少し回復させる」シエンは腕を痛めて銃を握る事ができなくなっていた。 ◆ヘラの危機 《ドローンに囲まれた!だれか応援を》ヘラの声が聞こえてシエンは震える手で無線をもつ。 《いまコウが助けに向かっている。タワーのカメラを使って移動してくれ》 ヘラはカメラ群にしがみつくようにして 目の前のドローンの突撃を警戒していた。2体のドローンもヘラを威嚇するようにブーンと音と立て、やや離れた位置で静止している。何度か攻撃を避けたヘラは体力を消耗し息がみだれている。 ドローンが一体、天井付近に上昇して行き、ヘラをつっているケーブルを引き始めた。「きゃあ!」思わずヘラはケーブルを掴んだ。アンチドローンが無くなったと確認したのか、ドローンはゆっくりとワイヤーを掴み引き寄せる。ヘラは釣りあげられぬよう、タワーのカメラを掴んで抵抗するが頼りのカメラが根元から外れそうになっている。 ドローンが勢いをつけて、グンッ引っ張ると。カメラは根元からもげて、ヘラはドローンによって宙づりの状態になってしまった。 なすすべなく引き上げられていく。暴れれば、簡単に落下してしまうだろう。操り人形の様にドローンに命を握られていることに恐怖した。 《身動きできない・・。誰か。》 「ヘラーッ!」マシーナの叫び声がきこえる。 声のした方向を見るがマシーナの姿は見えない。「ヘラ!上!上見て!」 視界の上からマシーナがタワーを駆け下りてくるのが見えた。ワイヤーを高く持ち上げ、タワーの壁を大きく蹴ってヘラの元へ飛び込んできた。 「マシーナ!」 ドローンは避けようとするがヘラを抱えており加速が鈍い。頭から飛び込むような姿勢で手を伸ばすマシーナへ、ヘラも必死に片手を伸ばす。ほんの僅かな距離まで近づきヘラとマシーナの目が合った。お互いがスローモーションに見える程、感覚が研ぎ澄まされマシーナの顔をはっきり見た。あと僅かで手が届く。 だが回り込んできたマシーナのワイヤーはタワーに絡み、あとわずかの所でマシーナを勢いよくタワーへ引き戻した。 「マシーナ!」伸ばした指の先に居たマシーナが急激に小さくなっていく。 ドローンはヘラを抱えたまま降下していった マシーナはタワーの壁に着地して膝をついた。「ヘラ。」 もう一体のドローンが、うつむいたままのマシーナへ急速に近づいて来てクモの様に足を広げ、素早くマシーナをつかまえると爪先のブレードでロープ切断しタワーから引き離した。 マシーナは抱えられるまま、左手をあげてドローンの堅い頭部を拳でドンと叩いた。ドローンはそのささやかな抵抗を気にする様子もなく。タワーから離れ降下を始めると、今度は左手でドローンの頭をわしづかみにして引き寄せようとする。全く動じないドローンの頭部だったが、突如バイザーにヒビが入った。掴んだマシーナの手の力はさらに増していき、ついには指がカバーを割りながら頭部に食い込んでいく。マシーナの左腕がふくれあがりマシーナはおそらく誰も見たことがないであろう形相になって咆哮した。 「うぉおお!」 凄まじい力で強引にドローンの首をもたげさせ、左眼の前に引き寄せる。ドローンの首のギアが悲鳴を上げる中、マシーナの赤い眼からアベルの光が撃ち込まれると、ドローンは降下を止めてその位置で静止した。 「よし。そのまま・・」 マシーナは眼に入る汗を拭いながら、真下の暗闇に目を凝らす。 遠くに赤いライトが見えて、徐々に上昇してくるドローンとヘラの姿が確認できた。 「ヘラ・・。」 彼女を連れ去ったドローンは姿勢が変わっており、ヘラを背中からしっかりと抱えていた。 まるでヘラがドローンを装着したように一体化している。 マシーナはヘラの救出の為にタワーから決死のダイビングをした時、ヘラを拘束していたドローンにアベルを撃ち込み、同時にヘラに眼へ通信でその事を知らせていた。 (やった!・・・やった上手くいった!)マシーナは思わず拳を握った。 そしてヘラに大きく手を振ると、ヘラも手を振りながら、マシーナをあっというまに追い越して上昇していく。 「ありがとう!」ヘラの声が聞こえた。 ヘラはドローンを支配し、翼が生えたかのように自由に宙を飛びながらタワーの頂上へと向かっていく。すぐにマシーナも続いた。二人はタワーカメラ群の周囲を回るように飛行し、いともたやすくカインのセンサーを無効化していく。 ワイヤーも必要なく、わずかな時間で二人は大量に仕込まれていた全てのレーザー装置を沈黙させた。 コウは天井からその光景をみて、改めてカインが二人を恐れた理由がわかった。 「スゴい・・無敵じゃないか。」 コウは、ヘラからきいた名前の由来を思い出した シエンの元に無線がはいる。 《こちら2班。カインのレーザーの無効化完了! ・・みんな無事です。》マシーナのふるえた声が響いた。 ◆1班 通信の切断 「こちら1班。いまコウと合流した。すぐに外殻ケーブル爆破する。」 『了解こっちも安全な位置まで退避した。いつでも大丈夫だ』シエンが応答した。 テオが起爆装置のスイッチを押すと遠くから連続で爆発音が聞こえ、すぐに近くのジョイントも次々と爆破しはじめた。 二人が二日間しがみつきながらセットした爆弾が外殻に設置されたカインのケーブルと装置を破壊していく。 腹に響く衝撃が何度も続き、弾けたケーブルや部品が宙を舞う。ボックスからは火柱が昇り、嵐に吸い込まれ大きく暴れまわっていた。 コウはヘルメットのモニターから各ポイントの状況を確認している 「ドーム下部のケーブル切断成功! 各ジョイントも破壊。タワーのメインケーブルは、 駄目だ。ダミーケーブルに囲まれて邪魔で確認できない!」 メインケーブルの周りに同じようなケーブルが束ねられて強度を増し、爆発から中のメインケーブルを守っていた。 「ダミーケーブル? 爆破前に撤去したはずだが。」 コウはすぐにタワーに這っているダミーケーブルに飛びつき登り始めた。「コウもう危険だ!戻れ!」テオが叫ぶ 「大丈夫。メインケーブルだけなら直接切断できる!エレベーターを上げておいてくれ。」コウは強風の中、爆破した場所まで登るとツタの様に絡まりあうケーブルの中に潜り込んだ。焼け焦げて半分ほどはちぎれているが、それでもまだ何本ものダミーが メインケーブルに絡みついている。何度も蹴りつけてダミーを横へずらすと、中から硬い外被に覆われたメインケーブルが見えてきた。モップを撃ち込もうとした瞬間、避けたダミーケーブルが弾力で戻ってモップを阻止した。(なんだ気持ち悪いな)すると周囲のダミーケーブルが破壊を阻止するようにメインケーブルへ絡まり始める。 「こいつら自動で補強するのか。」 「じゃあこれをやるよ」コウは爆薬を取り出だしダミーケーブルの隙間から奥に差し込こんだ。 ダミーケーブルは意思を持つかのように、絡みを緩めて爆薬を排出し始めた。コウはその緩みからメインケーブルが見えた瞬間を逃さず、渾身の力でモップを撃ち込んだ。 テオはエレベーターを呼びに行く途中で、後ろから大きな破裂音がして大量の火花が散るのが見えた 「コウ!大丈夫か!」 ダミーケーブル束が剥がれ、ゆるゆると柔らかに崩れ落ちてくる。 テオの目の前に柔らかなダミーケーブルの山ができて、そのケーブルの束からコウが顔をだした。 「メインケーブル。完全に切断しておいた。」 「驚いた・・。コウさすがだ。これでカインはQ層へ接続できなくなった。」 順調すぎるほど作戦は進んでいる。 しかし吹き荒れる強風を見ながらテオは不吉な予感がぬぐえずにいた。 ◆白夜 天井裏の暗闇の中でドローンの赤い眼が光る。嵐かドローンなのか、低くオオーンという唸りる音が反響し、奇妙奇怪で不穏な空気を漂わせていた。 通信が入る。《テオだ。外殻のメインケーブルは破壊した。天井裏の通信装置の爆破をたのむ。》 シエンは振り向き、後ろのマシーナとヘラへ親指を立てテオ達の爆破が成功したことを伝えた。 「了解。だがいま何か大きな装置が動いているようだが聞こえるか?この音はなんだ。外でなにか動きは?」 《こちらは、特にない。カインかもしれん。》 シエンは音に注意を向ける。ガタガタガタと鉄のチェーンがレールに巻き取られている音だ。嵐により風車のエネルギーが戻った今、天井の仕掛けが動き出したのだろうか、見当がつかない。 そのときカーラの無線が入った。 《こちらカーラ。保護課のベランダよ。空がおかしい。天井に穴でもあけたの?》 「いやまだ天井裏は爆破していない。どこにも穴はあけてないぞ。」 《あれは・・まさか。 シエン、いま日が昇ってきている・・!》 夜の21時30分。祭典会場のある方の壁から日が登り始めた。とても小さな日光ではあるが、祭典会場では、何かの 演出だと思った観衆が両手を上げ歓喜している。 《カーラ。ここの通信装置のせいかもしれない。あと30秒ほどで爆破する。その後また連絡する。》 「了解。」カーラはタワーのベランダに立ち上がり上を見た。同じベランダが続いている。 (この20階上にカインの部屋があるはず・・。) カーラは巨大なビームライフルを背中に掛けてベランダのへりに立ち天井裏の爆破を待った。 すぐに天井のつなぎ目から閃光が走るのが見えその直後、爆発音が響いた。爆破位置の付近は薄い素材が破れて落下し、 煙がもれている。(よし!) カーラはベランダの柱につかまって耳を澄ませる。シュィィイイイ 何度も聞いたあの音を聞き逃さなかった。 いつも大量に水をぶちまけていく消火ロボットが、爆破した天井に向って猛烈に上昇疾走してくるのが見えた。 ◆カインの部屋 天井の爆発音を聞き、ロボ2台はカインを守るように前後に立ち、一台のロボがベランダへ出て天井を確認している。 その後シュイイイイという音が近づいて、下を確認しようと身を乗り出した瞬間、消火装置ロボと激突し、ロボの頭は弾かれてベランダから消えた。消火ロボにしがみついていたカーラは突然飛び出したロボットとの激突の直前にベランダの中へ飛び込んで転がった。 「あ、あぶなかった・・。」 ベランダうつ伏せで倒れたカーラは、室内に数台のロボを見て、すぐに立ち上がりライフルを構えた。 ロボはみな立ち尽くし防御態勢だが武器は持っていない。(完全に隙をついた!) 巨大な外部バッテリーを拾う暇がなく引きずっているため、ストラップを利用して腰の低い位置でライフルを構える。 「カイン。この距離なら当てられる。」 椅子で眠っていたカインが目を開いた。長髪で顔が見えないほど金の模様が付いた男は立ち上がった。 背中に太いケーブルが数本つながっており相当重いのか、テーブルでも引きずるような音がした。 カーラはすぐに動きを制した「動くな。カイン。それ以上、指一つ動かせば頭を吹き飛ばす。」 『お前はなぜいつも私の前に現れる。どうやってきた。会場の警備はどうした。』 低く唸るような声は巨人が空から 語り掛けてくるような感覚だ。長髪の中から見える眼は赤く光ひかり、怒りと憎しみで埋め尽くされている。 カーラはビームライフルの威力をわずかに調節する。護衛ロボットが1体ずつカインの前後にいる。 この距離ならロボットごと吹き飛ばせるはずだ 「日光の動きを止めろ。光信号もだ。」カインは答えずにいる。 「5秒以内に返事がなければ撃つ。」カーラは変わらぬ口調でトリガーに指をかけた。 「なんの話だ。日光を動かしたのはお前達なのだろう。」 護衛ロボの体が、ほんのかすかに青くなった。 ドン! ビームが護衛ロボのシールドを貫き上半身を粉々に砕いた。 飛び散った破片がカインに当たり、残ったエネルギーがカインの皮膚を焦がした。 キューーーーンと銃ののチャージ音が響く。 カーラはビームの発射と同時に素早くブラスターを抜き、狙いをつけていたためカインはその場から動けずにいた。 「時間稼ぎはいい。次はお前の番だ。」 「話を聞け。我々がコントロールできたのは光だけだ。日光の軌道も日が昇る時間も仕組みは不明のままだ。」 カインはカーラをじっと見据えている。 カーラはカインが何を企んでいるかはわからなかった。(この表向きの人間のような動作に騙されては駄目だ。様々な端末から私を確認し、策を練っているはず。) 「カーラ。聞け。」 カーラは自分の名前を知っていることに驚いたがこれも顔認証なら簡単だろう。 「今の状況は我々のコントロールではない。別の誰かだ。そして光の装置は今しがたお前たちが破壊した。」 「カイン。お前の負けだ。ドローンと一緒に帰れ。」 カインは何かに気が付いたように、かすかに顔を上げた。 「ふむ・・そうか。ドローンに気が付いたか。確かにギアの関係で数時間は動きつづけるだろう、その後巻き戻せる。」 カーラは、意味不明な言葉を吐きながら考え込むカインの背中のケーブルが床に伸びていて、つなぎ目がかすかに光ったのを見逃さなかった ガン! ブラスターでカインの顔面を撃った。両手で防がれたが、腕はちぎれて飛んだ。 ガン!もう一発。カインは横へ飛んで避け後ろのロボットに命中した。 背中のケーブルが生き物のように動きカインを持ち上げ部屋の奥へと引っ張り込む。 「待て!」 逃げるカインの顔面から赤い光が見えた。アゴが焼け落ちて赤いコアが見えている。ブラスターがわずかに顔に届いたのだ。 ケーブルの引く勢いはすさまじく カインは飛ぶように部屋の奥へ引き込まれ分厚いドアが勢いよく閉まった。 室内の放送スピーカーからカインが話しかけてくる。合成された声だ。『私を破壊シテモ・日光ハ止められない。』 カーラはカインの逃げたドアへビームライフルを一発撃ち込こむと、ドアを蹴破って部屋へ飛び込んだ。 その部屋の異様な光景にカーラは背中に寒気を覚えた。 太く黒いケーブルが大蛇の様に絡まり、蠢いて一つの塊になっている。塊は中にカインを隠しケーブルの僅かな隙間から カインの赤いコアが覗いていた。 「カーラ。あの頃は私も未熟だった。お前たちの識別センサーをうまくコントロールできていなかった。だがお前は」 「だまれ!」 ドン! カーラはビームライフルを撃ち込んだ。さらにもう一発、撃ち込むたびに、固く丈夫なケーブルの外被が剥がれて飛び散る。だが周囲のケーブルが動いて穴をふさごうとする。 ドン! 再びケーブルが大きく弾けて塊の中心に赤くコアとなるカインの姿が見えた。 カーラはすぐに銃身をその塊のなかに突っ込んだが、阻止するようにケーブルがカーラの量腕に絡み強烈に締め上げた。 「ぐう!」 その痛みと圧迫でトリガーにかけた手が開きそうになる。 突然スピーカーからヘラの声が響く。「ヒューマン! お願い。撃たないで! 信じて 私もマシーナも人間よ」 「やめろ!」(カインは人の心に入り込む。惑わされるな。) カーラは叫びながら両腕に限界まで力をこめ、ジワリとトリガーに指が届いた。 こもった発砲音がして塊の後ろ側が破裂し、中からカインが吹き飛んで壁に激突した。 壁にへばりついたカインの胴体は高温で溶けてゆき、頭が溶ける体内へ沈み込んでいった。 カーラを捕まえていたケーブルも魂が抜けたように力なくほどけて、柔らかな紐のようなった。 (このケーブル。カインが強度を変えたり伸縮して動きを生み出す仕組みか。) 膝をついて、震える手で絡まったケーブルをほどいた。 《こちらカーラ カインと遭遇した。聞こえるか》 ・・・・ (通信が届いていない。皆無事なのだろうか。) 窓から、ゆっくりと日の光が昇っているのが見えた。(日光装置の爆破は失敗したのか・・。まずはこの光を止めねば。) カーラはベランダに出て、ビームライフルを固定し大きなバッテリーから威力最大にしてチャージしはじめた。 夜中から夕方、そして昼間の空が広がりはじめ、時間が逆転したような奇妙な感覚になる。 昇る日光はかなり小さいサイズだが光量が強く刺さるように眩しい。(これにカインの信号が混ざっているならすぐ消さなければ)。) サングラスをかけ日光の位置を確認した。すでにかなり高い位置まで昇っており動きが速い。 もうすぐ上のベランダの死角に入ってしまう。カーラは仰向けの様な体勢からスコープで装置を確認すると、蜂の巣型のライトの集合体が見えた。 息をとめトリガーに指をかける。 電子音がチャージの完了を知らせた。 ドン! 強烈な発射音と共に、巨大な光弾は真っすぐに日光へ撃ち込まれた。 日光の一部が爆発し火花が散った、点滅しエネルギーの放出がみえる。 つぎつぎとヘックス型のライトが消え始めていた。 (効果あり!まだ破壊しきれていない。次で止める)すぐに2発目の構えに入り狙いを定めた瞬間、日光はその狙いから逃げるように光を消し、空は一瞬にして夜に戻った。 (やったのか?消したようににも見えたが。) 「話を聞けと何度も言っていただろう。」 カーラは突然話しかけられ驚き、ブラスターを抜いて後ろへ構えた。狙撃に集中していたため、まったく気配に気が付かなかった。しかし攻撃はされていない。そして目の前にはよく知った人物が立っていた。 「コ・・コウ?なの?」 その言葉を聞いてコウのような人物はニヤっと笑う「懐かしい名前だ。」 ◆天井裏のドローン マシーナがとびかかってくるドローンにアベルを撃つが、そのすぐ横からもう一機が飛来しけん制した。 「キャア!」思わず通路に倒れ込む。ヘラも戦闘用のボディに付け替え上空をうかがっている。 「こちら3班。テオ。爆破直前に爆弾をドローンに剥がされた。日光装置の爆破は失敗だ。爆発したのはそのドローンだけだ。」 『了解だ。エレベーターで逃げられるか。』 「爆発の後、20機ほどドローンが飛び回りはじめた。こちらを気にしてないようだが危険でエレベーターには近づけない。」 シエンは伏せながら大声で二人に声を掛けた「数が多すぎる。もっと奥に退避しよう」 多くのドローンが一斉に動き出したことでプロペラ音が反響し耳が痛いほどだった。マシーナはパニック寸前の恐怖を感じていた。 ドローンの動きは無規則に見えるが、衝突もせずに徐々に列を作り始めている(全機が起動するのを待っているのか) そして奥には巨大な歯車がチェーン巻いており、その音も大きくなっていく。マシーナもシエンも何が起きているかわからず、 ただその身を隠す場所を探していた。 「テオ、すでに30機は飛び出してる。もう少し下へ避難する」 「シエン!チェーンの向こう見て!」 ガタガタガタとチェーンが巨大な装置で巻き取られ、奥から巨大な機械が見えてきた。 「あれはなんだ・・。」シエンは目を疑った。 真っ黒で武骨な巨大な機械の塊が側面の窪みに歯車をかみ合わせ、 ドームの斜面を昇ってきている。この空間を埋め尽くすような巨大さだ。その装置とつながったチェーンが引き寄せているのだ。 「こっちへ向かっている。まずい、巻き込まれるぞ。」シエンは二人に呼びかけた。 ヘラが周囲のレールを見渡す。「この天井や側面についたレールは、あれが移動するための物?」 だとすると、どの隙間に隠れても歯車に潰される可能性がある。現に巨大なからくりの装置は、奥に設置された柱や通路の手すりも踏みつぶしながら登ってきている。 《テオ。奥から大きな装置が向かってくる。潰されそうだ。エレベーターに向かう》 「ヘラ!マシーナ。エレベーターまで全力で逃げるんだ。ドローンが向かってきたらアベルを使え。」 反響で耳をふさいでいるマシーナはシエンの言葉が聞こえず座り込んでいる。 「マシーナしっかりしろ!逃げるんだ」シエンが手を引くが上手く立てない。その時ヘラがきてマシーナの両腕を掴んで耳から離した。「マシーナ。マシーナ!私を見て!」乱れた前髪の隙間から驚いて涙ぐみマシーナの眼がのぞく 「マンマのビルを思い出して!アベルが無くても一人で私に立ち向かってきた。さっきは私を助けてくれた。あなたは強い!恐れずに行くのよ!私と」マシーナはアベルを使わずに語り掛けるヘラの言葉がハッキリと聞こえてきた。 (そうだ。すべて、ヘラに会うため、一緒に暮らすために戦ってきた。) マシーナはうなずいて、立ち上がった。不思議と周りの音は聞こえなくなった。 シエンは二人の後ろに付き後方を警戒していた。巨大なカラクリは大きな歯車で頂上へ向かって動き続けている。冷静にその装置の仕掛けや行き先を予測する。ぶら下がったまま、まだ起動していないドローンが巨大なカラクリの歯車に巻き込まれて紙のようにくしゃくしゃに潰れた。 シエンは、カラクリの足元に巨大なレールが存在していて、ゆっくりと軌道を変えているのを確認した。 (ドローンを破壊する方向へ導いている!この装置には意思がある・・タワーの意思だ。) この世界の不文律ともいえる、誰も口に出すことのないルール。タワーの守護だ。 迫りくる壁はタワーの意思としか思えない。ならば少なくともタワーやエレベーターを破壊することはない。 ヘラとマシーナと共に上空を埋め尽くすようなドローンが飛び交う中、3人は手すりを素早くぐりながら、 ドローンに当たらぬ高さで50メー程先のエレベーター向かっていく。ドローンの群れも彷徨って、逃げ場を探しているように見える。上半身だけのヘラは機械の腕で素早く最前を進み、マシーナがその真後ろに屈んでついて行く。立ち上がれば衝突しそうな高度でかすめていくドローンもいる。 「テオ!もうすぐエレベーターにつく。箱を下ろせるか。立ち上がるのも危険な状態なんだ。」 《了解だ!エレベーターの近くで待機してくれ!》 3人はエレベーターのあとわずかの所で、巨大な影が迫ってくるのが見えた。「危ない。伏せろ。」手すりの真上を真赤な塊がかすめた。 マシーナが伏せたまま上を覗くと、ドローン達はいよいよ天井裏の空間を埋め尽くすほどの量が飛行し、規律を生み出して大きなうねりとなっていた。それが一つの大蛇の様にエレベーターを囲んで飛んでいる。 「ドローンもタワー周辺が安全だと気が付いたのね。」ヘラはアベルを真赤な大蛇に撃ち込むが、むなしく光は跳ね返された。 三人はなす術無く巨大なドローンの壁を見上げた。 ◆外の世界 《コウ!天井裏のドローンがエレベーターを囲んでいるようだ。こちらから助けに行くしかない。》 《テオ待って!エレベーターの側って、この下だろ?なら都合がいい。》 《どういうことだ。》テオはコウの言う好都合の意味がわからなかった。 《私が今から外殻の天井を開ける。3人には何かにしっかり捕まるように伝えてくれ。》 《外殻はこの爆弾で破壊するのは無理だ。》 《いや、外殻には緊急用の開閉機能がある。ただ勝手に動かすとなれば色々まずくてね。言えなかった。》 テオはコウの言葉を聞いて、何か気が付いたのかその案を受け入れた。 《わかった。頼む。その正確な場所が分かるか。》 嵐はドームを囲んで渦を巻き、以前の威力を取り戻そうとしている。破損しぶら下がっていたケーブルを吸い込み、外壁からケーブルを引き剥がしていく。 コウは床に這いつくばり、天板と嵌合している部品のナンバーを確かめながら、開閉機能の場所をさがしている。 《コウ!3人はエレベーター付近で隠れた。なにか手伝える事は!?》 《大丈夫だ! スイッチを見つけた。すぐに開けるから、テオもどこかに掴まっててくれ。》 コウは外殻の天板の一部、わずかに凹んだ部分に両手をかけ横にスライドさせた。 重たそうではあるが、天板は横の隙間に中に潜り、その下から大きな赤いプレート型の装置が現れた。細かい文字や模様が入っているが傷一つなく鏡面のように磨かれ、モップをとりだしているコウの姿が写り込んでいる。 コウはブーツの吸着スイッチ入れ、しっかりと床をふみしめながら立ち上がる。モップを正面に構え振り上げると勢いよくガラスの中心部に打ち下ろした。 中央の赤い強化ガラスが破れた。 モップの先端は跳ね返るでもなく、鍵穴に鍵を差し込んだように中心部分にしっかりと刺さり固定された。 コウは体重をかけて、コック栓を開くようにモップの柄を大きくひねった。 ズンンンンンン! 床から何かが爆発したような程の振動が伝わる。細かく振動が発生し床の下で大きな装置が動きだしたのだと分かる。 《シエン!これからコウが外殻の一部を開く。気圧の変化が起きるだろう。姿勢を低くして体を保持してくれ。》 テオは何が起きるか、コウとその周辺を見守っている。ます外殻に大きく綺麗な直線が走って隙間ができ、轟音とともに、50メー程の範囲の外殻が持ち上がって、横にゆっくりスライドし始めた。 テオは無線を握りしめ、存在を知らなかった天井の仕掛けに目を奪われた。 (壁の番人とよばれるコウ。タワーの仕掛までも知る存在か。タワーの意思に関わる者か。) テオは我に返り無線に叫んだ。《天井が開くぞ!いまドローンが囲んでいるエレベーターの真上だ。》 エレベーター近くの歩道の金網の真下に隠れた3人は、ドローン達の真上の殻がゆっくりと開きだすのを見た。一気に空気の流れがかわり激しい嵐の音が聞こえてくる。 「うっ。」マシーナは急に外の世界に放り出された感覚になり、外気が強烈に顔に吹き付けられ思わず呼吸がつまった。 外の世界は夜明けが近いのか薄明るく見えた。 コウはモップにしがみついて嵐に耐え、テオもエレベーターの僅かな凹凸に手をかけコウを助けに行く余裕は無かった。 開いていく外殻の中から、一台のドローンが上がってきた。だがすぐに強風によってグルグルと回転し抵抗もできずに空へ大きく吹き飛んでいった。 そしてまた数台が上がってきたが、外にでると同時に勢いよく上空へ吸い上げられる。 ドローンの高性能な風を捕まえる形状が仇となり、ハッチが開くほどに、ドローン達が外の世界へ吸い上げられ、お互いが衝突し砕け散る。ついには蛇の様な大群がハッチから一斉に舞い上がり、大量のドローンの羽や足が衝突分解をはじめて煙のようになった。 「ドローンが吸い込まれていく!」 マシーナもその様子を見ながら必死に金網にしがみついた。大きな渦だったドローン達はまるで外の世界へ落ちていくように見えた。ヘラは機械の腕でマシーナとシエンをしっかりと抱えている。 オオオオオオオ 嵐の音が、穴の開いた天井裏に響き渡る。残ったドローンは悲鳴のようにキーキーと音をたてて、飛ばされないようレールにしがみついていたが、登ってきた巨大なカラクリ装置に潰されていった。 大きな金属の柱が折れ、切り裂くような高音が空に響いた。 「この仕掛け・・きれい・・。」 マシーナには、巨大なカラクリがカインの装置を潰し、ドローンが悲鳴をあげ嵐と一体となり舞い上がる破壊の光景に魅入っていた。 壮大な歌声と旋律が聞こえてくるようだった。 (これは魔笛・・だ。 復讐の神々 母の呪いを聞け! マシーナは指揮棒を振り上げ。ドローンは空へ舞い上がる。 脳裏に美しい復讐の歌声が重なるように響いていた。 《もう十分だ!コウ。》テオは指示が飛び コウはモップのスイッチを押し下げ天井の動きを止めた。 天井裏の位置では吸い上げるような風はなくなり、三人は金網から出て立ち上がった。 「こちら3班。ドローンはほぼ消えた。・・・凄い仕掛けだな」シエンがコウへ無線で呼びかける。 《命の大恩人2回目だな。いや3回目だっけ?》 ヘラがエレベーターへ向かう途中で振り返る 「マシーナ上へ行きましょう。 マシー・・ナ?」 マシーナが見たことのない様な笑みをたたえて立ち尽くしていた。 強風で顔にまとわりつく髪を抑えながら。ドローンが飛んでいった空、Q層の底、タワーの姿、巨大な歯車 すべての世界の仕掛けに魅せられていた。 7章 記憶 |